小説創作科サマーセミナーも3日目に入りました。学生たちに話を聞くとさすが2年生はフィールドワークの授業をこなしているだけあって、上手くスケジュールを組んで動けているようですが、1年生は少々行き当たりばったりなところもまだあるかなぁという感じでした。
この合宿を通して、取材の必要性やその仕方を身体で感じてほしいですね。
ということで、今回は京都を舞台にしたとある作品に登場する場所を巡り、プロの作家がどのように描写をしているかを確かめる少々マニアックな内容でお送りします。
その作品とは、森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』、万城目学さんの『鴨川ホルモー』です。
お二人とも人気作家のため知っている方も多いのではないでしょうか。
では早速バスにのって最初の目的地へ出発。
まずはここからでしょう。京都大学です。
作家のお二人の母校でもあり、2つの作品の主人公が通っている大学でもあります。
”この阿呆の祭典は、聳え立つ時計台を中心として校舎が点在する「本部構内」と、東一条通を挟んで南にある「吉田南構内」を主戦場として繰り広げられる。”(夜は短し歩けよ乙女)という描写がされています。
正門を通るとすぐ左にある学内レストラン「カンフォーラ」では一般人も食事することが可能です。
ここでカレー好きの第24代尾池総長が監修したという名物「総長カレー」を食します。
スパイスが利いていて美味! 実際にレトルトとして売られておりお土産に持ち帰ることができます。
京都大学を出て左へ向かうとすぐに赤い鳥居の吉田神社が見えてきます。
ここでは、『鴨川ホルモー』前半のハイライトである”吉田代替わりの儀”が行われた場所でもあります。
ここであの儀式が行われたと思うと…(笑)。すごく面白い場面なので興味あればぜひ作品を読んでみてください!
そして神社を後にして、京都大学に沿って北へ向かい百万遍交差点(写真左)を曲がり、路地を曲がるとある吉田泉殿長の喫茶店『ZACO』(写真右)。鴨川ホルモーでは、主人公安倍をはじめとした青龍会ブルースの面々が集まるところです。
“そのとき、突然、店のドアがちりりんと鈴を鳴らして開いた。奥の席で髪の長い白人の客と音楽の話をしていたマスターが、「いらっしゃい」と低い声で出迎える。”(鴨川ホルモー)
ぜひ低い声のマスターに会ってみたかったのですが、時間の関係上次の目的地へ急ぎます。
そして到着しました鴨川デルタ。
“賀茂川はやがて、北東から流れてくる高野川と合流して、鴨川と名称を変える。その二つの川の合流地点に存在する、三角形のぽっかり空いた、だだっ広い石畳に覆われた地形。誰が呼んだか鴨川デルタ。”(鴨川ホルモー)
森見登美彦さんの『四畳半神話体系』にも登場しますね。
鴨川デルタの向こうに発達している原生林・糺の森(ただすのもり)
“京都、下鴨神社の参道である、齢を重ねた楠や榎が立ちならぶ糺の森を、広々とした参道が抜けていく。ちょうど盆休みにあたる頃だから、蝉の声が降りしきっている。”(夜は短し歩けよ乙女)
そして、世界遺産として登録されている下鴨神社へ到着。
正式には「賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)」として東西に奉られている『ご祭神』は国宝として認定されています。
賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと) 西殿
玉依媛命 (たまよりひめのみこと) 東殿 ※下鴨神社webサイトより
今年はちょうど式年遷宮の年にあたります。ちなみに式年遷宮とは一定年限で社殿を作り替えること。
下鴨神社は21年周期で式年遷宮を行っており、いたるところで補修工事が行われていました。
さて、参拝をすまして糺の森を引き返すと、河合神社が見えてきます。
『方丈記』で有名な鴨長明はここの神官の家系だったそうで、自身も神官になることを目指していたそうです。
しかし50歳で全ての公職から身を引き、方丈記を記したとのこと。
なお方丈とは一丈四方,四畳半ぐらいの広さをさし、境内には実際に長明が住んでいたという方丈庵が再現されています。
“行く人の川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。”
から始まる冒頭の「無常」感はこの中で生まれたのでしょうか。実際見ると人が住む家としてはかなり狭く感じます。
なんと組み立て式とのことで、解体して別の場所で組み立てることができるとのこと。
各地を転々としていたという長明はこのポータブルハウスと共に移動していたのでしょうか。
そんなことに思いを馳せていると、辺りは徐々に暗くなってきました。
最後に訪れたのは、
“これは私が初めて夜の木屋町から先斗町界隈を歩いた、一晩かぎりのお話です。”(夜は短し歩けよ乙女)
にて、お酒が飲みたいと、”魅惑の大人世界”に踏み入る黒髪の乙女を、先輩が追いかけるシーンで登場する通り「先斗町(ぽんとちょう)」です。
狭い路地にたくさんのBARや料亭、レストランが並ぶ先斗町。正に大人の香りが漂う通りといった感じで、歩くだけでもわくわくする気分を味わうことができます。こういった場所の雰囲気も味わうことで神社・仏閣だけではないリアルな京都を描写するのに役立ちますね。
いかがでしたでしょうか? 前回は歴史上でも有名な場所にスポットを当てましたが、今回は現代文学ということで作品を読んでいないと伝わらない部分もあったと思います。
しかし、取材後に集めた資料や知識で創作をするときは、時代設定を現代に設定することが多いのではないでしょうか。
現役で活躍している作家が何を見てどのように表現しているかを検証して、自分ならどのように描写するかを考えることは、創作にプラスとなる取材方法の一つだと感じます。
古代から現代まで町中に様々なスポットが同化して息づいている京都は取材する場所としてピッタリなのです。